2021年6月16日水曜日

「なりすまし」スザンナ・キャハラン(著) 宮﨑真紀(訳)

 

めちゃくちゃ勉強になった本でした。


厚くて難しそうで、アメリカの人の本にありがちな「微に入り細に入り系」で、話を追いかけているうちに迷子になりそう、、、という予感があったので、、著者あとがきと訳者あとがきを読んでから、本編を読みました。


つまりネタバレの後で読んだので、、、以下、ネタバレを含みますが、知って読むくらいでちょうどいいかと思います。


(以下、ネタバレあり)


話はアメリカの近代精神医学・臨床の大きな転換点となった、有名な論文を、軸としています。


半世紀ほど前に世を動かしたその論文に魅力を覚えた著者が、論文の中で症例として出てくる「調査・実験のために精神科閉鎖病棟に潜伏したにせ患者(タイトル「なりすまし」の含意のひとつがここ)」たちの素顔を当たろうとするのですが、、、、これがなんと、、、ほぼ、見つからない。


まさかそんなことないよね、、と思いつつ、調査を重ねた結果、論文のほとんどの部分が捏造だったのではないか、との結論に到るのです。


この調査話こそ作り話ではと思えるのですが(それほどに、なんていうか、、、話ができすぎている?)、論文の「捏造」を暴こうとする作品なので、根拠とする文献や面談相手、会話を、これでもかというくらい丁寧に情報開示しているのです(ということだろうと、訳者さんが述べてました)。


追いかけて読むうちに、おのずと、アメリカの、ひいては欧米の、ひいては(世界を席巻している)いわゆる「西洋医学」「現代医学」の中での、精神疾患の患者や病気の扱われ方、薬や面接や入院治療の(あまりに未成熟な)本質、DSMが生まれてきた流れ、そして今のそれらの(本質的な、並びに、臨床上の)問題点を、通史として学べました。


講談社が「おもしろくて、ためになる」という素敵なコピーを使っていますが、まさに面白くてためになる。精神医学を専門としなくとも、医療関係者には、ぜひ読んで欲しい、一冊でした。(患者側の関係者にもきっとためになること大ですが、、患者側が学ばなくても安心して受けられる医療になるといいですよね)


厚くて途中で飽きるかなと思ったけれど、全体を通して謎解きというか、、闇あばき系で、、結論ありきの批判本ではなく、、、ルポルタージュの記録となっているので、淀みもなかったです。今どき(?)の言葉で言えば、、、文春砲的?😄


私は患者の立場として受けてきた治療の位置づけを学び直せました。


同時に、精神医療の受療体験を作品として世に出そうとしている者として、未出の前作とは違ってはっきりとは見えていなかった今作にも、社会的な明確な出版意義があることを、教えてもらいました。


(ジャケットのデザインのおどろおどろしさ。・・いらないと思いました。精神疾患への偏見を正そうとする意図もある本で、この手のデザインて。。ありがちですよね。。副題「正気と狂気を揺るがす、精神病院潜入実験」も焦点からずれて感じました。。



(下は日本の通史です。これも力作!で面白かったですよ! 八木先生の本は神田橋先生との共著も含め面白く、でも数年前に手放してしまったのですが、、、今はどちらも絶版!? 失敗しました〜)




(そして中井久夫先生のこんな本もあるのですね! これは面白そうだわ〜)




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